12月5日、東京・後楽園ホールで行われたフラッシュ赤羽ジム主催の「OVERHEAT BOXING NIGHT 115」で行われた48.5キロ契約4回戦で、元日本スーパーバンタム級王者中島吉兼氏が会長を務める、東洋堂ハウスSPボクシングジムのプロ第1号選手、中島秀裕選手が夏嘉麒(ジャパンスポーツ)選手を3回TKOで破り初陣を飾った。

私はジャパンスポーツのマネジャー・ライセンスを、IBF日本の池田会長から西島洋介山選手のスカウト活動でライセンスを返上した期間はあるが、かれこれ30年以上保持。請われて協栄ジムのトレーナーとして選手の育成にも携わって来た。

このカードが決まったのは全くの偶然。中島会長のジム開設のお祝いをAOKIジムの大竹重幸氏が、中島会長と長く親交がある小林昭善ジャパンスポーツ会長代行に預けたのが出発点で、「返礼不要」としていた大竹氏に対し、中島会長が律儀にもお返しの一席を設けた事から決まった。

中島会長は現役時代に協栄ジムのマネジャー&トレーナで世界王者2人を育成した大竹氏とハワイキャンプを共にした経緯があり、付き合いは長い。

たわいもない昔話をするうちに、プロテストに受かった選手が出来、年内にデビューさせたいがミニマム級は選手が少なく相手が見つからないという中島会長の話を聞いた大竹氏は、小林会長代行に「カキちゃんも相手いないんだろ」とぶつける。夏嘉麒選手も相手を探していたが、見つけ出せないでいた。

「だったらちょうどいいんじゃない」(大竹氏)

中島選手はアマチュアで1勝3敗と追う経歴があるのがネックとなっていたと見られるが、昨年12月にデビューした夏嘉麒選手は1勝(1KO)2敗。ウェイト面での合意を経て両選手は対戦に同意。小林会長代行は、親交あるフラッシュ赤羽ジムの川島勝会長に12月のカードでのマッチアップを依頼。ギリギリで興行枠に入る事が出来、この試合は実現した。

Hidehiro Nakajima vs. Kaki Ka

試合は中島選手が3回TKOで勝利。試合後の控室でカキちゃんは、これまでに見せた事がない悔しいという感情を見せた。

「悔しいと思う気持ちがあったら、まだ伸びるよ。リベンジしよう」。そんな話をしながらジャパンスポーツの後援会長を務めて下さる佐藤公治氏が経営する、池袋・神の羊へ結果報告に向かう。そしてあれこれと話をしているうちに、中島会長から小林会長代行に連絡が入った。

「今日はありがとうございました。今、暁にいるんですが、良かったらどうですか」

これを受け、小林会長代行と私は、池袋駅をはさんで反対側にある居酒屋・暁へ足を傾けた。かつて元日本スーパーフェザー級王者のコウジ有沢氏がいた暁には、現在、中島会長の子息が勤務している。

暁では東洋堂ハウスSPボクシングジム勢が初勝利に大いに盛り上がっていた。そこへ敗者勢が登場。遠い席からは、「さっき戦ったばっかりなのにいいんですか」との声も聞こえるが、普通に見ればそれも当然。しかし、中島会長と小林会長代行は選手を指導し、育成する事を仕事としているわけで、選手はお互い勝利を目指して一生懸命戦うのが仕事。

私が中島会長と会話をするのは初めて。「平丸の時は勝ったと思ったんだけどなァ」という私に対し、中島会長は「負けたと思いました」と、何の衒いもなく返して来た。

Toyodo_Sp

今度の中島選手のデビュー戦決定は、中島会長の律儀な心と行動が引き寄せた。そしてまた、ジム開設の後ろ盾となった(株)東洋堂ハウスSP代表取締役の松森広志氏との偶然の再開も、この人ならそういう運を持っているんだろうァと感じさせた。

たかが4回戦と思われ方も多いだろうが、このような人のつながりと縁が、ボクシングの歴史を作って来たのも事実で、それが世界王者誕生への道に繋がった話はたくさんある。小林会長代行は悔しさを噛み殺し、友人である中島会長のプロ初勝利を祝福。

そして、「もう次の作戦練って来たから、またやりましょう。今度は負けませんよ」。互いにさらに成長し、次はもう一つ段階を上げたレベルで戦えるようになる事を期待したい。負けは悔しいけれど、中島会長、おめでとうございました。