WBAの暫定世界王者量産が止まらない。ブリッジャー級を含める全18階級中、各階級で認定する世界王者が一人だけというのは、5階級だけになろうとしている。ミニマム級はWBO王座も保持するスーパー王者オスカー・コラーゾ(プエルトリコ)=12戦全勝(9KO)=が存在するが、同級1位高田勇仁(ライオンズ)=16勝(6KO)8敗3分=選手と、同級2位松本流星(帝拳)=6戦全勝(4KO)=選手による、レギュラー王座決定戦が9月14日に名古屋のIGアリーナで開催される事が決まっている。
フライ級は8月23日(日本時間24日)に米・フロリダ州オーランドのカリビ・ロイヤル・オーランドで、同級1位ヤンキエル・リベラ(プエルトリコ)=7戦全勝(3KO)=と、同級2位アンジェリーノ・コルドバ(ベネズエラ)=19勝(12KO)無敗1分1NC=により暫定王座が争われる事が決定済。
世界王者一人は、ライトフライ級の高見亨介(帝拳)=10全勝(8KO)=選手。ライト級ジェルボンテ・デービス(米)=30勝(28KO)無敗1分=、ウェルター級ロランド・ロメロ(米)=17勝(13KO)2敗=、ミドル級エリスランディ・ララ(キューバ)=30勝(18KO)3敗3分=、クルーザー級スーパー王者ヒルベルト・ラミレス(メキシコ)=48勝(30KO)1敗=の5階級だけになる。
2021年8月、WBAヒルベルト・ヘスス・メンドーサ会長は、チャンピオンベルトの数を減らす計画を発表。その理由は世間が求めている事であるとしたが、「私が100%同意しているわけではありません。私はタイトルを増やすことで、選手に多くのチャンスを与えることができると思っています」と個人的見解を述べている。
そのきっかけとなったのは、2021年8月7日(日本時間8日)に米・ミネソタ州ミネアポリスで行われた、ガブリエル・マエストレ(ベネズエラ)と、マイカル・フォックス(米)による、世界ウェルター級暫定王座決定戦で、マエストレが不可解な判定勝ちで新王者となったが、即時再戦が指令され、その後暫定王座は凍結となった。
これを重く見たABC(ボクシング・コミッション協会)は、WBAに対して公式に書簡を送り、王者乱立の現状をメンドーサ会長に強く抗議。同時にABCの理事会はアメリカの管轄区域内でのWBAタイトル戦は積極的に承認しない。WBAが任命するオフィシャル陣は受け入れない。WBAタイトル戦のスーパーバイザーが試合をコントロールすることを許可しないという方針を、全米各州及びカナダのコミッションに呼びかけるに至った事による。

WBAのチャンピオンベルト削減計画は同年10月からスタートされ、レギュラー、暫定王座を排除し、スーパー王座に次ぐポジションとして、ゴールド王座が強化される方針が発表された。メンドーサ会長は、「どれくらい時間がかかるのかわかりません。どのクラスで暫定王座が削除され、レギュラー王者が残るのかわかりません。難しい計画です」とコメント。これに対し世界の関係者、メディア、ファンからは、「何も期待していない」との声が多数上がった。
そして翌2022年7月、メンドーサ会長は、パナマシティにあるWBA本部を米・テキサス州ヒューストンへ移転する手続きが進行中である事を明らかにした。暫定王者がなくされて行く中、WBAはヒューストンにオフィスを開設。入札の開催、管理を行うようになった。
しかし、パナマシティからヒューストンへの本部移転は、まだ実現していない。そしてWBAは昨年あたりから再び積極的に暫定王座戦を活発化。WBAコンベンション・ファイト、KOドラッグ興行を中心に、全く意味のない暫定王座を量産中だ。
6月14日(日本時間15日)にアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催された、WBA・“KO to Drugs”・フェスティバルのメインカードで行われた、世界バンタム級暫定王座決定戦では、42歳のノニト・ドネア(フィリピン)=43勝(28KO)8敗=が、アンドレス・カンポス(チリ)=17勝(6KO)3敗1分=を9回負傷判定で破り新王者となった。
しかし、ドネアは2連敗中で約1年11ヶ月ぶりの再起戦にもかかわらず、いきなり5位にランクイン。一方のカンポスもドネアと戦う以外に世界ランキングに入る理由は何もなかったが、突然8位にランクされ試合は挙行された。

8月8日(日本時間9日)には、リビア・ベンガジのマルティロス・デ・ベニナ・スタジアムで、フェザー級1位のミルコ・クエロ(アルゼンチン)=15戦全勝(12KO)=が、15位セルヒオ・リオス・ヒメネス(メキシコ)=19勝(7KO)1敗=を2回KOで破り暫定王座を獲得。母国へ帰ったクエロは、世界王者として大歓迎を受けている。
全くお粗末だったヒメネスは6年のキャリアで8回戦を3度戦っただけで、10回戦は未経験。19戦のキャリアの中で勝ち越している選手と戦ったのは2度だけ、5連敗以上の相手が10人。最近の対戦相手は6連敗中、一つの引き分けを挟んで8連敗中。そして、5月に行われた6回戦で初回KO勝ちしたグスタボ・モリーナ(メキシコ)=24勝(9KO)28敗=は、なんと13連続KO負け中だった。
クエロの為に用意された暫定王座決定戦だったが、試合後、相手の力量に付いて訊ねられたクエロは、「対戦相手を選ぶのは僕じゃない。僕は決められた相手と戦うだけだ。誰とでも戦うよ。井上尚弥?、もちろん」と、目を輝かせていた。
ここまでくると、全階級に暫定王者が設置されるのは時間の問題で、暫定王者が独自の防衛ロードを始める可能性も否定できない。ボクシングに詳しくない人々からしてみれば、”暫定”は気にならないのかもしれない。世界王者は一人であるべきものだと思うが、果たしてこの先どうなるか。