1982年8月12日(日本時間13日)にWBC世界フェザー級王座を9度防衛中の王者サルバドール・サンチェス(メキシコ)=44勝(32KO)1敗1分=が、不慮の自動車事故により亡くなってから今年で43年。フアン・ラポルテ(プエルトリコ)との10度目の防衛戦が決まりキャンプ地へ向け、愛車である白のポルシェ・928のハンドルを握っていたサンチェスは、メキシコ・ケレタロのフリーウェーで前を走る車を追い抜こうとして反対車線へ出てた所で、小型トラックと正面衝突。一瞬のうちに命を失った。

サンチェスは16歳の1975年5月にプロデビュー。連勝を重ねたが1977年9月に行われたメキシコ・バンタム級王座決定戦でアントニオ・ベセラ(メキシコ)にスプリットの判定負けで初黒星を喫する。しかし、これは不運な判定だったとの声がしきりだった。

その後、サンチェスは連戦連勝で世界ランキングを駆け上がり、1980年2月2日(日本時間3日)に米・アリゾナ州 フェニックスで、8度防衛中のWBC世界フェザー級王者ダニー・”リトルレッド”・ロペス(米)への挑戦チャンスを掴む。ロペスは8度の防衛戦は7度のKO勝ちで、残る一つは反則勝ちと全盛期にあった。

Salvador Sanchez vs. Danny Lopez

米西海岸で絶大な人気を誇ったロペスに挑んだサンチェスは、ロペスの強打をサイドステップで交わし切り、疲れを待って連打を決め13回TKO勝ちで王座を獲得。これは大番狂わせだった。ロペスとのリターンマッチにも14回TKOで勝利を収め防衛を重ねたV6戦では、13度防衛中のWBC世界スーパーバンタム級王者ウィルフレッド・ゴメス(プエルトリコ)の挑戦を受け8回TKOで撃退。

1982年7月21日(日本時間22日)に米・ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンで行われた9度目の防衛戦では、後の2階級制覇王者アズマ―・ネルソン(ガーナ)に15回TKO勝ち。これがラストファイトとなり、23歳の若さでサンチェスは亡くなったが、人を尊び、決して人の悪口を言わない好男子だった。しかし、大のカーマニアで口癖は、「今度の試合に勝ったら新車を買う」だった。

Salvador Sanchez vs. Azumah Nelson

23歳のサンチェスはまだまだ成長途上で、未完のカウンター・パンチャーだったと言われているが、かつてのパウンド・フォー・パウンドで、ミドル級からヘビー級まで制覇した元世界4階級制覇王者ロイ・ジョーンズJr(米)は、「サルバドール・サンチェスはメキシコの偉大なボクサーで、間違いなくこれまでに私が見た中で、最高のボクサーだ。彼からいくつかのことを学んだ。彼は並外れたフットワークの持ち主で、攻撃、防御、すべてを兼ね備えていた。非常に完成されたファイターで、彼のような選手はいなかった。サンチェスは、私に影響を与えた最初の外国人ボクサーだ。タフな強豪を次から次へ倒し、殿堂入りを果たした。彼はフアン・ラポルテ、ダニー・ロペス、ウイルフレド・ゴメスといった男たちと戦った。サンチェスはファンタスティックだった」と語っている。

そして昨年頃から、4団体統一世界スーパーバンタム級王者井上尚弥(大橋)=30戦全勝(27KO)=選手のフェザー級転向が話題になると、井上vsサンチェスが「実現したらどちらが勝つ」という、マニアならではの贅沢な夢を描くファンの声も、国内とわず海外からも聞こえて来る。

サンチェスは紛れもない名選手。そして、歴史上の名選手との対戦が比較されるまでになった井上選手は、これからどこまで上り詰めるのか。10年以上に渡り世界のトップに君臨する井上選手と、陣営の節制と努力には本当に頭が下がります。この先も大いに楽しみです。