元世界6階級制覇王者(海外では8階級制覇とされる事がほとんど)のマニー・パッキャオ(フィリピン)の、2025年度の国際ボクシング殿堂入りが決定。元世界2階級制覇王者マイケル・ナン(米)、元世界2階級制覇王者ビニー・パジェンサ(米)と共に、男子モダン・ボクサー部門で選出されたことが発表された。今月17日に46歳の誕生日を迎えるパッキャオは、殿堂入りの資格取得1年目にしてメンバー入りを果たした。

1998年12月のWBC世界フライ級王座獲得を皮切りに、スーパーウェルター級まで世界6階級を制覇したパッキャオのプロデビューは1995年1月。年齢は16歳1ヶ月だった。アマチュアのリングで戦っていた15歳の時、マニラのプロモーターから、より良い指導を受け、戦いのチャンスがあるマニラへ引っ越すよう連絡があったが、パッキャオには旅費が無く、50ドルの船代を仲間に借りて出立し、プロボクサーとしてのスタートを切る事になったが、当時の比国ルールではプロ試合は18歳からと定められていた。

6人兄弟の4男であるパッキャオは、ルール破りを告白した上で、「私は貧しく、家族を助ける事が出来ませんでした。心は痛みましたが、より良い生活を得る為に愛する母親、友人たちの住む町を離れる決心をしました。そして、いつか戻って来ると」と、当時の心境を告白。プロデビュー前は1日の食事に事欠くこともあったが、プロ選手となってからは、「1日3回食事が出来るようになりました。幸せでした」と当時を回想している。

パッキャオが後にも先にもプロボクシングの試合で、日本で戦ったのは一度きり。1998年5月18日、東京・後楽園ホールで開催された、協栄ジム主催のガッツファイティング興行のメインイベントに出場した、OPBFフライ級王者パッキャオは、日本フライ級2位寺尾 新 (八王子中屋)=10勝(1KO)2敗1分=選手と対戦。

寺尾選手はこの試合の2ヶ月前に、後のOPBF王者で、徳山昌守(金沢)選手の持つWBC世界スーパーフライ級王座にも挑戦した柳光和博(ワタナベ)選手からダウンを奪って引き分けている実力者だった。

しかし、試合はあっけなく終わる。僅か1ラウンド。パッキャオは3度のダウンを奪い2分59秒KO勝ち。当然ながらこの当時、ここまでの選手になるとは誰も思ってはいない。そして、今、思い出すのは試合後の控室で、パッキャオがおちゃらけた感じでよくしゃべっていた事。

この試合をマッチメイクした当時の協栄ジムマネジャー、大竹重幸氏からは、「テレビもあるから先代(金平正記氏)からも、良いカードを作るように言われていたし、それなりのちゃんとしたファイトマネーを払っていますよ」と聞かされているが、一部はチケットであった事を考えると、ある意味これはすごい快挙(笑)。

パッキャオは寺尾選手に勝った後、日本のリングで多くの日本人ホープと対戦し、壁となったジェス・マーカ(フィリピン)のように、ガッツファイティングのリングで日本人選手を相手戦っていくプランがあったが、1998年12月4日にタイ・プッタモントンで、WBC世界フライ級王者チャッチャイ・サーサクン(タイ)に挑戦するチャンスを掴み、8回逆転KO勝ちで王座を奪取。

ここから殿堂りのキャリアがスタートしたが、フライ級王座は1999年9月17日にタイ・ナコーンシータンマラートで行われた、メッグン・シンスラット(タイ)との2度目の防衛戦で、オーバーウェイトにより前日計量失格。王座を剥奪されて行われた試合でも3回TKOで敗れた。

しかし、パッキャオは立ち上がる。2001年6月23日(日本時間24日)に米・ラスベガスで行われた、IBF世界スーパーバンタム王者レロホノロ・レドワバ(南アフリカ)への挑戦試合で、試合2週間前に決まった代打挑戦にもかかわらず、レドワバを6回でTKOに破り2階級制覇達成。

この2021年当時、私がジム移籍にかかわった元日本スーパーフライ級王者の名護明彦(白井・具志堅→全日本P)選手が、米・ロサンゼルスにあるパッキャオと名コンビを組んだフレディ・ローチのジムで、パッキャオとスパーリングで手合わせしているが、「なんだか、ごちゃごちゃと手を出して来る感じ」と、感想を語っていた。

だが、パッキャオの本骨頂はこれからで、階級を上げ強いチャンピオンを破り、数々の名勝負を演じて来たのは、ファンの皆様ご存じの通リ。

パッキャオ最後の世界戦は、WBA世界ウェルター級休養王者として、2021年8月21日(日本時間22日)に米・ラスベガスのT-モバイル・アリーナで、WBA世界同級スーパー王者ヨルデニス・ウガス(キューバ)=27勝(12KO)6敗=に挑み、12回判定負けした試合となるが、初めての世界王座獲得から実に23年目であった。

その後、公式試合には出場していないパッキャオだが、いまだにWBC世界ウェルター級王者マリオ・バリオス(米)=29勝(18KO)2敗1分=は、パッキャオと対戦するプランがあると伝えられている。